【履歴】

登録日/内容/備考

2011.06.05/新規作成/無し

【宇宙放射線について】

宇宙空間は地上と違い、太陽や他の天体からの強い放射線が飛び交っている。

これを宇宙放射線(一次宇宙線)と呼んでおり、大きく分けて以下の3つの種類がある。

・太陽粒子線

 太陽から放出される高エネルギー粒子線で、陽子(80~90%)とHe(10~20%)と

 重粒子(約1%)から構成されている。

 数百MeV以下の幅広いエネルギー分布を持ち、そのピークは太陽活動に左右される。

・補足放射線帯粒子線

 Van Allen帯粒子線とも呼ばれ、宇宙を浮遊している粒子線が地球の磁場により補足された

 もので、主に陽子と電子から構成されている。

 内帯と外帯との二層構造になっており、内帯は赤道上高度2000~5000kmに位置する

 比較的小さな帯で、陽子が多い。外帯は10000~20000kmに位置する大きな帯で電子が

 多い。

 内帯に補足された陽子のエネルギーは数MeV~数百MeVに分布し、ピークは150~250MeV

  に付近にある。

・銀河宇宙線

 太陽系外から飛来する宇宙線で、陽子(約80%)とHe(約12%)と電子と陽電子(約2%)と

 重粒子(約1%)から構成されている。

 幅広いエネルギー分布を持ち、ピークは1GeV付近にある。

 

上記を踏まえると低軌道~中低軌道を飛行するCubesatは、陽子による影響を最も受ける

と考えられる。

【耐放射線試験の種類】

耐放射線試験には大きく分けて2つの種類がある。

・シングルイベント(Single Event Effects=SEE)試験

 高エネルギー放射線による電子回路の誤動作、破壊に対する耐性を確認する試験である。

 SEEにはいくつかの種類があり、以下の項目が代表的なものである。

 ・シングルイベントアップセット(Single Event Upset=SEU)

  荷電粒子の入射によりメモリ素子などに記憶されていた情報が反転(0と1が逆転)する。

  RESETやREWRITEにより回復可能。

 ・シングルイベントラッチアップ(Single Event Latch up=SEL)

  荷電粒子の入射により大電流が流れデバイスの機能が失われる。最悪の場合、回復不能

  になるが、通常はシャットダウンにより回復可能。

 ・シングルイベントバーンアウト(Single Event Burn out=SEB)

  荷電粒子の入射によりパワーMOSFETに大電流が流れ焼損する。

  デバイスは破壊され回復不能。

 ・シングルイベントゲートラプチャ(Single Event Gate Rupture=SEGR) 

  荷電粒子の入射によりパワーMOSFETのゲートが通電し焼損する。

  デバイスは破壊され回復不能。

 

 代表的な試験は以下の通りである。

 ・重粒子試験

   大型イオン加速器で得られる重粒子の入射により評価する。
 ・プロトン試験

   高エネルギープロトンの核反応により評価する(中・低軌道衛星用途でよく用いられる)。

 ・Cf試験

   Cf252から出る核分裂片により評価する(重粒子試験は高価な為、予備試験として

   用いられる)。

 

・トータルドーズ(Total lonizing Dose Effects=TID)試験

 高エネルギー放射線による機器の経年劣化を確認する試験である。

 

 代表的な試験は以下の通りである。

 ・高ドーズ率試験

   放射線源としてCo-60を用い、10^3 ~ 10^4Gy/hのベータ線を照射し評価する。

 ・低ドーズ率試験

   放射線源としてCo-60を用い、0.1 ~ 1Gy/hのベータ線を照射し評価する。

   (バイポーラ系デバイスの低ドーズ率増速劣化(Enhanced Low-Dose-Rate Sensitivity

   =ELDRS)を確認する)

 

Cubesatは運用期間が数ヶ月と短いことからトータルドーズ試験は自前で実施する必要は

ない(劣化する前に衛星の運用期間が終了してしまうので)。

【目的】

放射線により、機器にSEU及びSELが発生し致命的な問題が起きないか確認する。

【試験方法】

重粒子照射装置を使い機器に重粒子を照射し、SEU及びSELの発生確率を算出する。

1.SEU試験

  CPU、FLASH等の任意のメモリ空間を「0」ビットで全て上書き後、10秒間待機し

 データを読み出し「1」ビットに反転しているビット数を数える。この作業を試験時間中

 繰り返して確認する(Fig.1参照)。 試験が終了したら、反転ビットの数を集計しICの

 全メモリ空間で発生する割合に換算する。

Fig.1
Fig.1

 (SEU計算例)

 ・任意のメモリ空間:全体の50%

 ・全メモリ容量:32KB

 ・LET:44MeV/(mg/cm^2)

 ・試験時間:2H

 ・試験中に測定されたSEU数:50個

 試験で使用したメモリ空間が全体の50%なので、全体のSEU数は100個となる。

 よって100/(32000・12)=2.6X10^-4[SEUs/(bit・day)]

 高度400kmにおいてLETは4.4MeV/(mg/cm^2)であるので

 2.6X10^-4/(44/4.4)=2.6X10^-5[SEUs/(bit・day)]

 となる。

2.SEL試験

 CPU、FLASH等のSELが起こると致命的な影響が起こると思われる機器に電流計を設置し

 SEL発生(電流の急上昇)の回数を数える。

Fig.2
Fig.2

 (SEL計算例)

 ・LET:44MeV/(mg/cm^2)

 ・試験時間:2H

 ・試験中に測定されたSEL数:5回

 試験中に測定されたSEL数は5回なので

 5/(1・12)=4.2X10^-1[SELs/(device・day)]

 高度400kmにおいてLETは4.4MeV/(mg/cm^2)であるので

 4.2X10^-1/(44/4.4)=4.2X10^-2[SELs/(bit・day)]

 となる。

【試験条件】

試験台数:1台(可能であれば数台)

装置:重粒子照射装置(任意)

放置時間:10[s]

試験時間:2H(任意)

LET:20~40[MeV/(mg/cm^2)]

【判定基準】

・試験中に暴走しないこと

・5X10^-6[SEUs/(bit・day)]以下であること

【備考】

・SEU試験とSEL試験は同時に実施する

・重粒子照射装置が使えない場合はCf試験で確認しても良い

 (ただしCf試験だとLETの調整が難しいのでSEUの発生確率の算出が出来ない可能性がある)

・CREME96を用意できる場合は、設備に応じた試験方法を優先すること

・試験ではイメージするような深刻な状態は早々起こらないので、試験を繰り返すよりはSEU及び

 SELが起こっても問題なく動作するようにハード及びソフトに対策を施したシステムを構築しておく

 方が有意義である

・国際宇宙ステーション(高度約400km)のLETは4.4[MeV/(mg/cm^2)]である